大歓声の中「ただいま」とつぶやいて、彼は氷上にいた。
男子フィギアスケート個人戦
足の怪我の状態が不安視されていた羽生選手は、これ以上なシ チュエーションで氷上に還ってきた。
五輪2連覇の称号を手に入れた彼の目には涙が溢れていた。
金メダルを取る準備は十分にやってきたと
オリンピックを誰よりも知っていると
絶対的な王者になるべく、常に前向きで力強い言葉で臨んでいた姿に、なんと強い精神力の持ち主なのだろうと、感嘆していたが・・・。
その称号を手に入れた彼の口から出た言葉に愕然とした。
「連覇のためだけに幸せを全部捨てようと思いました」
まだ23歳の青年の言葉である。
一般的な青年達が味わう幸せは捨てざるをえなかったかもしれない。
けれど、普通では味わおうとしても手にすることができない幸せも、また彼の手の中にある。
幸せの形は、人それぞれ、人の数だけある。
彼の幸せは、彼にとって多くを犠牲にした上でしか感じることができないのかもしれないが、3連覇がかかる次の五輪では、自らの人生を犠牲と捉えず、彼が捨てなければいけないと感じてきた「幸せ」も経験して臨んでほしい。
そして、また、氷上の彼の世界感に魅了され、くしゃくしゃな笑顔で一番高い台に立っている彼の姿をみて、幸せな気分に浸りたい!
と無責任なオーディエンスは願う・・・。